迎えた初日の夜、ケージの中から鳴き声が止まらない。出してあげたほうがいいのか、放っておいていいのか、判断がつかないまま朝を迎える——そう感じる方は多いと思います。この記事では、まず様子を見てはいけないサインを確認したうえで、鳴き声にこたえる前に確かめておきたいことと、そのあとの過ごし方を順番に整理します。今夜、何から確かめればいいかが見えてくるはずです。

猫は本来、単独で生きる動物です。自分のにおいを家具や壁にこすりつけて、その範囲を安全な縄張りとして確立することで、はじめて気持ちが落ち着くと言われています。
お迎え初日の部屋は、その自分のにおいがどこにも付いていない、まったくの新しい環境です。猫にとっては、これまでで最も強い不安にさらされている状態だと説明されています。

においがないだけで、そんなに心細い場所になっちゃうんだね……。人間の感覚だと、つい「きれいな部屋を用意したのに」って思っちゃうけど、猫からすると全然ちがうのか。
夜になって周囲が暗く静まり返ると、知らない環境への警戒に加えて、母猫やきょうだい猫、それまでの飼育元から急に離れたことによる孤独感が重なります。日中は静かにしていた子が、暗くなってから鳴き出すのは、そのためだと説明されています。
さらに猫は、外を通る車の光や、聞き慣れない家電の動作音といったかすかな刺激にも敏感です。人にはほとんど気にならない音でも、初日の猫にとっては警戒の対象になります。

暗くなると、知らない場所ってもっと怖く感じるのかなあ……。

昼間は平気そうに見えたのに、夜になってから鳴き出す……というのは、そういうことなのかもしれないね。
初日の夜鳴きは、においのない場所に置かれた猫の、縄張りの習性にもとづいた反応です。その子の性格やわがままではありませんし、迎え方が悪かったということでもありません。うちが選んだ子は神経質だったのだろうか——と考える必要はない、ということです。
ここからは、実際に何をすればいいかを順番に見ていきます。最初に一つだけ、先に確かめておきたいことがあります。ほとんどの場合は当てはまりませんが、当てはまったときだけは順番が変わるためです。先住猫がいるご家庭には、そのあとにもう一つ、夜のあいだの過ごし方について確認していただくことがあります。

これから挙げるのは、体に症状が出ている場合の話です。口にした可能性のあるものに心当たりがある場合は、元気そうに見えても、このあとの確認の順番に進まず、先に動物病院へ連絡してください。何が危ないかは別の記事にまとめています。

初日って、そもそも「いつもの様子」を知らないんですよね。どこからが「いつもと違う」なんでしょう?

いい質問ですね。初日は「その子のいつも」がまだ分かりませんから、鳴き声の大きさや長さで判断しようとすると、かえって迷ってしまうんですよ。
そこで見ていただきたいのが、鳴き方ではなく体のほうです。次に挙げるような様子は、鳴いている理由が不安ではなく、体の不調にある可能性があると言われています。

下の表は、鳴き声そのものではなく、猫の体に出ている様子をまとめたものです。ケージの外から見て分かるものと、そばに寄って初めて分かるものが混ざっています。
次のいずれかに気づいたときは、後述の確認の順番に進まず、動物病院へ連絡してください。
| 気づく様子 | 考えられること |
|---|---|
| 呼びかけへの反応が鈍く、体も冷たい | 体温が下がっている可能性 |
| ふらつく、けいれんのような動き | 血糖値が下がっている可能性 |
| 口を開けて呼吸している、呼吸が速い | 呼吸が苦しくなっている可能性 |
| 何度も吐く、水のような下痢や血が混じった便が出る | 体力が急に落ちている可能性 |
| トイレで力んでいるのに、おしっこが出てこない | 尿路がふさがっている可能性 |

表の一行目にある「体も冷たい」は、離れたところから見ているだけでは分かりません。気になったときは、静かに扉を開け、声をかけずに短く触れて確かめてください。
ここで、この記事の中で使い分けている三つの言葉を整理しておきます。【開ける】はケージの扉を開くこと、【触る】は体の様子を確かめるために短く手を触れること、【出す】は猫をケージの外に移すことです。
扉を開けることと、ケージから出すことは別の行為です。体を確かめるために抱き上げて外に出す必要はありません。以降のセクションでも、この使い分けのまま読み進めてください。
前の表が「今夜のうちに判断すること」だとすれば、次の二つは翌朝以降に判断することです。夜のあいだに慌てて数えるものではありません。
- 家に着いてから1日以上、おしっこがまったく出ていない
- 家に着いてからまったく食べていない状態が、翌日まで続く
どちらも起算点は家に着いてからです。前の家での様子は分からないことが多いので、こちらで確認できる時点から数えてください。なお、前の表にある「トイレで力んでいるのに、おしっこが出てこない」は、力んでいる様子が見えている状態を指します。ここでの「出ていない」は、そもそもおしっこをした形跡がないという状態で、別の話です。
様子を見てよいとされるのは、【元気があること】【ケージの中で静かにうずくまっているだけであること】、この二つがそろっている場合に限られます。おしっこやごはんをまだしていないという一点だけを取り出して、大丈夫と判断するものではありません。
逆にいえば、条件のどちらかが欠けているときは、様子を見てよい状態ではないということです。どれにも当てはまらなければ、次の確認へ進んでください。
自宅でできることは、病院に連絡がつき、指示を受けられる場合に限られます。体が冷えているときは、乾いたタオルや毛布で全身をやさしく包んで移動までの冷えを防ぐこと、子猫で意識があるときには糖分を含むものをごく少量、口の粘膜に触れさせるよう案内されることがあること。いずれも受診と一体で行うものであり、これで様子を見るためのものではありません。
今夜の連絡先が分からない場合は、かかりつけの動物病院の留守番電話に夜間の案内が入っていることがあります。それでも分からないときは、お住まいの自治体名と「夜間 動物病院」で調べる方法があります。そして次の夜までに、地域で夜間に受診できる先を一度調べておくと、同じ迷いを繰り返さずにすみます。
一方、病院でしかできないこともあります。血管から直接おこなう点滴、たまった尿を出す処置、酸素を満たした部屋での管理。いずれも【自宅では代わりがきかないもの】です。同じことを家で試みる方法はない、と考えていただいて差し支えありません。

ご自宅でできることは、あくまで病院へ向かうまでの時間を支えるものだと考えてくださいね。迷われたときは、一つの可能性として不調を疑って連絡してみる。それでいいと思いますよ。

弱っている猫を前にすると、何かしてあげたくなります。ただ、次の三つは【してはいけない】とされています。
- ぐったりしている猫の口に、水や砂糖水を流し込む:飲み込む働きが弱っているときは、液体が気管や肺に入り込み、命に関わる状態を招くため
- 冷えた体を、熱いお風呂に入れて温める:パニックを悪化させるうえ、弱った猫の薄い皮膚にやけどを負わせるおそれがあるため
- ドライヤーの熱風を、至近距離から体に直接当てる:同じく、やけどのおそれがあるため
三つ目について補足すると、ドライヤーそのものが使ってはいけない道具というわけではありません。危ないのは直接・至近距離から当てることです。温めたいときは、乾いたタオルや毛布で包む方法のほうが安全とされています。

先住猫がいる場合、初日の夜は新入り猫と先住猫を別々の部屋に分け、姿を合わせないようにします。夜鳴きの気配に興奮した先住猫がケージに近づいたり、ドア越しに威嚇し合ったりすると、お互いのストレスが強くなり、そのあとの慣らしに影響すると説明されています。
ケージ越しの対面は、慣らしの手順としては大切な段階です。ただし夜のあいだは行わないでください。ここで避けているのは夜間の対面であって、対面そのものではありません。
翌日以降の合わせ方や、初日全体の流れは、2匹目を迎えたいと思ったら(多頭飼い)とお迎え当日にやること・やってはいけないことにまとめています。

体の様子については、〈まず、様子を見てはいけないサイン〉の章ですでに確かめていただいた前提です。まだの方は、そちらを先にご確認ください。
- トイレが排泄物で汚れていないかを、離れたところから見る
- 寝床まわりの空気が冷えすぎていないか、暑くなりすぎていないかを確かめる
- 水の器がこぼれて空になっていないか、ごはんの器が空になっていないかを、離れたところから見る
①と③は、ケージを開けずに離れたところから確認できます。鳴いているからといって、そのたびに扉を開けにいく必要はありません。
②で見るのは部屋の環境であって、猫の体温ではありません。毛布が寄ってしまっていないか、部屋の空気が冷えすぎていないか、といった範囲の確認です。体そのものが冷たいことに気づいた場合は、この順番の続きに進まず、〈まず、様子を見てはいけないサイン〉に戻ってください。
なお、季節ごとの室温や湿度の管理は、この記事の範囲を超えるため、別の記事で扱います。ここでは数字ではなく、部屋の空気の様子として確かめてください。
命に関わる可能性は、前の章で先に外してあります。そのうえでこの順番は、すぐ直せるもの・その場で戻せるものから並べています。
トイレの汚れも、毛布の寄りも、空になった器も、いずれもその場で整えられるものです。整えたことで鳴きやむなら、それは不安ではなく不快の訴えだった、ということになります。

ここからは、前の章の確認を済ませ、どれにも当てはまらなかった場合の話です。
夜鳴きへの対応としてよく語られる「反応しない」は、猫を見捨てて眠るという意味ではありません。【応じないこと】と【応じてよいこと】が分かれている、と考えると整理しやすくなります。
鳴き声への返事として応じないのは、次の四つです。
- 声をかける
- ケージから出す
- 遊ぶ
- ごはんを追加する
反対に、応じてよいこともあります。それは鳴き声そのものに応えるのではなく、猫のいる環境のほうを静かに整えることです。具体的に何ができるかは、このあとの「今夜、まだできること」にまとめています。
この線引きには理由があります。鳴き声に人が来て応えることを繰り返すと、猫は「鳴けば人が来てくれる、外に出してもらえる」と学習し、鳴き方が強く、長くなっていくと説明されています。届けたいのは「呼べば来る」という関係ではなく、「この場所は安全だ」という感覚のほうだ、ということです。

初日の夜、やりたくなる対応は主に二つあります。ケージから出してリビングで遊ばせること、そして人の布団に入れて一緒に寝ることです。どちらも気持ちとしてはよく分かるものですが、初日の夜には控えるとされています。
初日から家の中を自由に歩かせると、暗がりの隙間に入り込む、不意に外へ出てしまう、配線をかじる、置いてあるものを口に入れるといったことが起こりやすくなります。部屋のどこに危険があるかは、猫が危険な場所・脱走経路を事前につぶすチェックポイントにまとめています。
人の布団も同じです。緊張している猫を布団に入れると、寝返りで押しつぶしてしまう事故や、物音に驚いた猫が反射的に人を咬んでしまう事故が起こりうると説明されています。

ぼくたちからすると、出してほしくて鳴いちゃうこともあるのかもしれないね。でも、初めての夜のお部屋って、知らないものだらけで危ないのかも……。
いつ落ち着くのかは、その子によって違います。早く静かになる子もいれば、時間がかかる子もいて、期間を約束できるものではありません。
目印になるのは、日数ではなく変化のほうです。鳴いている時間が短くなってきた、鳴かずに眠っている時間が増えてきた、ごはんや水に自分から口をつけるようになった。こうした変化は、その場所を安全だと感じ始めているサインだと言われています。
そしてこれは、今夜だけの話ではありません。この記事で扱っている過ごし方は、初日を越えたあとの夜にもそのまま当てはまります。

ここで挙げるのは、買い足しをせず、今夜のうちに手を動かせることだけです。ひとつ大事なのは、これらを鳴き声への返事として行わないこと。移動や出し入れは一度でまとめて済ませ、そのあとは静かに離れてください。
人の出入りがあるドアの近くや、テレビ・家電のそばは避け、部屋のいちばん静かな隅に寄せます。人の気配がまったく届かない別室よりも、寝室と同じ部屋か、ドアを開けた隣の部屋など、様子がうかがえる距離が好ましいとされています。
集合住宅なら、ケージを壁から少し離すだけでも、音の伝わり方は変わります。ケージ選びそのものについては猫を迎える前に揃えるべき必須グッズ一覧、置き場所と部屋慣らしの考え方は最初の1週間、ケージはなぜ必要かにまとめています。

ケージの中に、扉を開けたままのキャリーや、タオルを敷いた段ボール箱を入れておきます。猫にとっては、自分の体が見えなくなる暗い隙間があること自体が、安心の材料になると言われています。
キャリーを寝床として使っておくと、そのまま普段の居場所として慣れていくという利点もあります。

ケージの明るさについては、考え方が分かれます。厚手の布や毛布でケージを覆い、外の光や動きを遮ることで落ち着く子がいる一方で、完全に真っ暗にすると、かえって不安が強まる子もいます。どちらかが正解というものではないため、覆いを前面だけにする、側面だけにするなど、その子の反応を見ながら調整してください。
もうひとつ、猫のフェロモンに似た成分を部屋に広げる製品が、安心の手がかりのひとつとして使われることがあります。効果の感じ方には差があるため、これを入れれば鳴きやむというものではなく、環境を整えるうえでの選択肢のひとつとして捉えてください。

猫は、排泄する場所のそばで食べることを強く嫌うとされています。ケージの中では、トイレを下の段に、食器と水を上の段に置き、上下で離すのが基本です。
水の置き方については、食器の隣に置くという考え方と、食事場所から離すという考え方の両方があります。にゃんハピでは、食器の隣に置く場合も、そこから離れた場所にもう一か所用意する、という形で統一しています。詳しい配置は最初の1週間、ケージはなぜ必要かもあわせてご覧ください。

寝る前に、猫じゃらしなどで息が少し弾む程度まで遊ばせ、そのあとに食べ慣れたフードを出します。順番が逆にならないようにするのが要点です。
猫には本来、獲物を追う、食べる、毛づくろいをする、眠る、という流れがあるとされています。遊んでから食べるという順番は、この自然な流れをなぞる形になるため、そのあと眠りに入りやすいと説明されています。

鳴き声やケージの中で動く足音が、隣や階下に響くのが気になる場合は、物理的な備えを用意しておく方法があります。ケージの下に敷くマット、窓に引く厚手のカーテン、壁側に立てる遮音のパネルなどです。どの程度静かになるかは住まいの構造によって変わるため、これで音が消えると考えるものではありません。
近隣の方へ「新しく猫を迎えたので、しばらく夜に鳴き声が響くかもしれません」と先に一言伝えておく、という方法もあります。ただし、これが常に必要というわけではなく、住まいの環境やお付き合いの距離感によって判断は分かれます。伝える場合も、いつまでに収まるかを約束する言い方は避けておくほうが無難です。
参考までに、わが家の2匹の初日の夜がどうだったかも書いておきます。ただし、これはあくまで2匹分の話です。

しょうすけの初日は……記憶をたどると、あまり鳴かなかったと思うのよね。ペットショップからのお迎えだったんだけど。
ママちゃんいわく、しょうすけは初日からあまり夜鳴きをしなかったそうです。ゆうまのほうは、初日からマイペースで、まったく夜鳴きをしませんでした。ふてぶてしいと感じるほど物怖じせず、落ち着いていました。ゆうまは今も、普段からあまり鳴かないタイプです。
なお、しょうすけは初日ではありませんが、留守番中に鳴いていたことがあります。これは初日の夜鳴きとは事情が違う話なので、ここでは触れるだけにしておきます。

2匹とも鳴かなかったからといって、うちのやり方がよかったんだ、とは言えないと思っていて。同じ家に、同じように迎えても、鳴く子と鳴かない子がいるんだよね。
つまり、鳴く/鳴かないは、迎え方の良し悪しや飼い主の対応で決まるものではない、ということです。今夜、鳴きやまない声を聞いている方は、それを自分の落ち度として受け取らないでください。

「出してあげたほうがいいのか、放っておいていいのか」って、いちばん迷うところですよね。でも、その二択で考えるんじゃなくて、まず体の様子を見る、次に環境を確かめる、という順番だったんだなと。

鳴いてる子も、意地悪してるわけじゃないんだよね。きっと、まだ自分のにおいがない場所で心細いだけなのかも。ぼくだったら、静かな隅っこにお家があったら嬉しいかもしれないなあ。

ぼくは……声をかけてもらうより、そっとしておいてもらうほうが落ち着くのかもしれないなあ。同じお家でも、感じ方はそれぞれちがうのかも。

今夜できるのは、体の様子を確かめて、環境を静かに整えて、そのあとは離れて待つこと。何もしていないように見えて、実はいちばん手間のかかる過ごし方なんだよね。

初日の夜鳴きは、体の様子を先に確かめ、そのうえで環境のほうを整えていく——この順番さえ持っていれば、迷いはずいぶん減ると言われていますよ。
今夜は、静かに待つ時間を選んであげてくださいね。そして気になることがあれば、遠慮なさらず動物病院へご相談ください。

